鮮鶴平和賞受賞者講演

未来世代のため地球を保護するのは道徳的責任

キリバス共和国のアノテ・トン大統領

 10年以上前、私たちが気候変動問題を訴え始めた時、私たちは大変な忍耐と確信を必要としました。当時、私は「あなたは科学者なのか」「気候変動を証明するデータはあるのか」と言われました。それに対して私は、「私は科学者ではありませんが、我が国民の生活、故郷に実際に何が起きているのか、経験していることを話しているのです」と答えました。海抜3メートルの島国で暮らす我が国民は、生命に関わる現実的な問題に直面しているのです。高波や高潮による被害、海水の浸食、塩害。いずれも深刻化しています。

 私たちが気候変動問題を訴え始めて10年以上が経った今、この問題は世界的に一定の合意を得るまでになりました。国連の潘基文事務総長、フランシスコ・ローマ教皇、オバマ米国大統領ら世界の指導者も気候変動問題解決を訴えるまでになりました。

 我が国民は次のような質問を投げかけています。「キリバスの未来はどうなるのか」「故郷に住み続けることはできるのか」。指導者として、これらの声に耳をふさぐことはできません。「故郷は守られる。大丈夫だ」と言えなければなりません。島を永存させる戦略が必要です。例えば、島を浮かせる、島自体を高くする、という方法もあるでしょう。これに関する技術的解決を韓国政府とも議論を重ねています。希望はあるのです。

 地球を故郷とする世界人として、地球を保護し、未来世代の平和と安全を守ることは道徳的責任です。テマウリ、テラオイ、アオテタボモア(キリバスの伝統的言葉で健康、平和、繁栄)が共にありますように。

 

飢餓・貧困を克服し、平和な世界構築を

インドのモダドゥグ・グプタ博士

 お釈迦様はかつて人類の最大の病は「飢え」であると言いました。今日、貧困と飢えは発展途上国で最も深刻な問題となっています。貧困と飢餓は世界で平和を脅かし、地域紛争の要因となっています。

 私が過去50年間に取り組んできたのは、開発途上国の貧しい地方で水産養殖技術を開発し教えることです。私の最初の取り組みは、シンプルで安価で低リスクの技術を開発することでした。このアプローチは1970年代にインドで始まり、他のアジア諸国、アフリカの国々で採用され、魚の生産量を何倍にも増やし、「青の革命」(※)の基礎を創りました。

 小規模農家向けの技術開発は、土地を持たない人々に恩恵をもたらしました。私たちはいくつかのNGOと共に土地のない人々5~10人のグループを作り、訓練することで、活用されていなかった水産資源を利用すると同時に、土地のない人々に生計を立てる道を開きました。

 貧しい地方の家庭では男性のわずかな収入が頼りで、女性は収入の手段を持たず家に留まっています。そこで、女性たちが水産養殖を通して収入を得て、食糧安全保障に貢献できるようにしました。女性による世帯収入の向上は、家族の安心感と幸福感を上昇させ、子供の教育レベルの向上につながりました。

 先進国の研究機関と開発途上国の研究所のパートナーシップで行われた急速に育つ魚種の開発は、開発途上国の魚の生産量増加に大きく寄与しました。
 すべての人々が幸せに暮らす平和な世界を構築するために、力を合わせて、貧困、飢餓、栄養不足の問題を解決しましょう。

※「青の革命」とは水産養殖の技術開発に伴う発展をいう。一方、農作物の品種改良などによる農業分野の発展を「緑の革命」という。